過去

過ぎ去ったこと.昔.

人間にとって大事なのは未来だとよく言われるが,私は過去だと思う.未来は,よい過去を残すために重要なのであって,未来そのものが大事であることはないと思う.過去は絶対的だが,未来は流動的だ.過去は絶対にあるが,未来はあるかないかわからない.

映画ブレードランナーの中で,人間そっくりに作られた「レプリカント」が登場する.レプリカントは細胞組織まで人間そっくりに作られているので,作られてしばらくすると感情を持ってくる.学習によって,あらたなものがつくるわけで,これは,ニューラルネットワークの賜と思われる.高度な脳と感情を持つに従い,過去のないレプリカントは次第に,情緒が不安定となってくるので,何号機からかは,最初から,あるモデルとなっている人間の記憶を最初から入力しておくことにした.「過去」を与えるわけである.これによって,情緒がかなり安定する.しかし,入力できる情報はかなり限られており,その情報の穴に気がつくことで,レプリカントは非常に感情的に不安定になる,つまり,不安になる.レプリカントにとって,過去は非常に大切なものであり,本人もそれをよく知っている.それで,彼らは,予め用意された,過去の写真をとても大事にして,常に持ち歩いているというわけである.これは,何もレプリカントに限ったものではなく,過去の記憶の穴が少ないことでその大切さが当たり前となっている我々にもあてはまるのではないか?やはり,ディックが原作した模造記憶(トータルリコール)は,経験を脳に植え付ける,つまり,過去を作る商売の話である.

逆に考えると,過去を一切消されると言うのは,その人間を殺すことと同じであると思う.新たな人間がそこで誕生するわけだが,それまでの人間は死んでしまう.死んでしまうとその先,生きられなくなる,何の経験もできなくなるということで,人は死をおそれるが,その恐れている自分とは過去から形成された自分である.

素敵な過去を獲得するために,未来を精進して生きていこう.